見つけておねがい見つけないで

幸福は証明できない

拾ってはまた手放して、君の幸せを祈り続ける

感情ちゃんはどこで迷子になったのかな?小さくてボロい車でここまで運ばれてきたんだね。乗り心地が悪かったでしょう?なんて言われるのもいやだよね、そんなに簡単じゃないってことを、僕は分かっているつもりだよ。

感情ちゃん、お腹は空いてる?何か食べたいものがあったら言ってね。望みのものがあるとは、言い切れないけど食べたいものを食べたいと表明するのは自由だってこと忘れちゃいけないよ。

感情ちゃんはちょっと長いこと、歩きすぎたみたいだね。道に引きずり回されたこともあったのだろう、汚れているところもあるね。一度、洗濯機で洗おうか。そのあと物干し竿であったかい風を浴びて。そうしたら畳んで箱にしまってあげるね。そうだ、今度何か、敷物を作るときには、君のことを使うかもしれないからそのときは力を貸してね。

 

「汚くてボロい車はどこへ行ったの?」

 

さあね、どこかへ走っていってしまったみたいだね。あいつはいつも好き勝手に走り回っているだけだから、今もこうして感情ちゃんを置いてけぼりにしているんだ。感情ちゃんのことは僕が引き取るから、汚い車のことなんて忘れたらいいよ。また勝手にも、その車が走って君のことを迎えにきた時は、僕が蹴っ飛ばしてやるからさ。ええ?蹴っ飛ばしたら勝てるのかって?それはわからないけど、あの車に感情ちゃんをさらわれるわけにはいかないんだ。

 

「もう車には、乗れないの?」

 

感情ちゃんは、車に戻りたいのかな?君はどこにいるのが幸せなんだろうね。僕の元にいてもいいけど、他に行きたいところがあるなら好きなところに行けばいいよ。僕はそれを邪魔する存在にはなろうなんて思っていないんだ。

感情ちゃん、形は変わっても、君は君のままだよ。だから好きにするといい。

え、なになに?

君を置き去りにした、ボロくて小さい車を探しに行きたいって?それが君の願いなら、僕も協力するよ。僕は君の幸せを一番に願っているからね。

 

「誰かのことを信じたいんだ。でもいちいち大きな覚悟を決めたり決意を誰か表明したししない。言及しないのが、信じるということだと思うんだ」

 

感情ちゃんは聡明だね。小さなボロい車がたくさんの場所に連れて行ってくれたんだね。へえ、それはそれは、いろんな景色を見たでしょう。思い出したくそうか、それなら、小さくてもボロくても、例えばたまに引きずり回されても、車があった方がいいのかもしれないね。わかったよ、とりあえず落ち着くまでここにいたらいい。ここは温かくて、君を傷つけるものはない。優しい場所だよ。また車に乗って、どこか遠いところへ行ったときに、この場所を思い出すといい。いつでも戻ってこれるように僕はここにいるからね。

 

でもまだ外は暗いから、少しここで眠っていくといい。天気予報では、明日は朝から晴れるって。