見つけておねがい見つけないで

幸福は証明できない

文章があまりうまくない編集者は本を携えて修行に出ることにした

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「わかりやすい文章を書こうと思って書いている人より、わかりやすくなってしまう人の方が多いんじゃないか……だとしたらわかりやすい言葉を使えないわたしの手癖は希釈してはならない個性なのでは?」なんて甘えたことを呟きながら、だらだら文章を書き綴っている今日このごろ。この状態は心地よくて、一年前と比べるとだいぶ気楽にやれるようになった。物書きになりたい気持ちは、もうとくに「夢」という位置づけでもなくなり、それで食っていこうという気もなくなった。お金がほしい、贅沢がしたい、といった俗な欲求は別の手段を使って叶えていこうと思ってから、気が楽になった。

 

「書く仕事で食っていこう!」(ちなみに「書く」の方向性すら決まってなかった笑)という意気込みが空回りして、肩に力が入りすぎていた時期があった。去年の春〜初夏の頃。「もうやだこんな自分!」、要約するとまあこのような、なんとも幼稚園児くさい相談を、ある作家の方にしてしまったことがある。くだらないお悩み相談に、その方は率直で優しい言葉で答えてくれた。「文章はスポーツと違って期限がない。年をとってからも挑戦し続けられる。そんな趣味をもってると思ったらそれだけでもう十分じゃないですか!」といった旨のお言葉が、不健康にギラギラしてたわたしの憑き物を落としてくれた。書けないし叶わなという焦り、憤りから、得体の知れない「喜び」のようなものに、見事に気持ちが変わっていって、いまとても穏やかな気持ちでこの文章を書いている。その頃から気兼ねなく「作家になりたいし小説も書いてる」などと、合コンや会食の場で言えるようになった。

 

好きな言葉を壁に貼って眺めたり、好きな本を鞄にしまって持ち歩く。もはやそのようにして人生を充実させていけるなんて、すばらしいではないかと思うようになった。昔、友だちが「俺、本好きなんだなあ、と思って、すごく安心したんだよね」と言っていたのを思い出した。彼はわたしより先に、たくさんのことに気づいてるからすごい、素直に背中を追おうと思いながらもやっぱりちょっと悔しくて失笑してるなう。

 

とはいえ焦ってるからできること、ぎらついてるから書ける文章もある。そうやって書いた文章も、このブログのていを装った箱の中に残っている。愛おしいような触りたくないような、複雑な気持ちがするから、あまり読み返すことはないのだが。それこそ身を削りながら書いて、若くして自死した作家の名作などを読むと、どうあるべきが正解なんてそれこそわかりやすい答えはないのだと思い知らされる。

 

「編集者」という肩書きを与えていただいてから、文章を読み書きする機会に恵まれ、とてもいい時間を過ごせたと思う。「Webライター」といっしょくたにするのは申し訳ないくらい、いろいろな特性を持ったライター業の方がいて勉強になった。それに、日常的に文章を書いたりより適切な表現探しをしているうちに、前よりはるかに、書きたいことを書ききる力がついたように思う。あくまで以前の自分と比べて、なんだけど。「文章が好きだからこの仕事に就きました!」という違和感たっぷり、かつ正直で単純な理由で飛び込んだ世界で、これほど多くのものを収穫できるとは思わなかった。※「文章が好きです」という言葉に違和感を覚えるのは、「食べものが好きです!」のように括りが大きすぎるからだ。ハンバーグとかカレーライスというように、文章の種類を細分化をして伝えるのも難しいので、この不自然な言葉を使ってしまう。怠惰ですか、そうですか。

 

「編集者」の仕事がとってもとってもとっても好きだった。愛をもって原稿を提出できたとき、達成感でいっぱいになった。ああ、おこがましい!こんなこと言っちゃって、恥ずかしい。だけどこの仕事を続けているからといって作家にはなれない。というか、もしかするとこの仕事の延長線上にある何かと、作家業は対極にあるような気がしている。それにわたしが仕事上、最も価値を発揮していた場面はクライアントとの関係構築につながる提案業務とディレクション業務だった。この強みを伸ばせば、もしかしたら一生この仕事で食っていけるかもぐふふと思って、いったん今いる場所を卒業させてもらって、新しい場所で経験を積むことにした。修行だ。修羅場をくぐろうぞ。一回り大きくなって、この仕事にまた戻ってきたいと思う。わがままなようだけど。

そしてわたしの人生の趣味と食ってくための仕事に臨む姿勢は、まったくの別物であることをここに記しておく。

 

好きなことは仕事にすべきか否かをわかりづらく書くとこういう文章になるのかもしれない。あれ、そんな大衆的なテーマになっちゃうの?そんなつもりで書き始めたわけじゃなかったのに……!それに、よく読むと前後の文章につながりがない。前後の文章に関連性が見いだしづらいです、補足する文章を入れてください、と編集コメントを入れたくなる。まったく、ちゃんと書けるように勉強しなさいよ。