見つけておねがい見つけないで

幸福は証明できない

くっ、息ができない

 

 それは一瞬の出来事で、くっと、引きつられたように息が吸えなくなった。次にすぐ喉のあたりに焼けるような痛みを感じた。洗顔ネットを使って作った手のひらいっぱいの泡をこすりつけて顔を洗ってるときに、口の辺りについた泡の雲を飲み込んでしまったのだった。口の前に落ちてくるタイミングで口を開けて息を吸ってしまって、まるっとそのまま、大きな泡が気管に入ったと理解するまでのスピードはおそろしく早かった。人は考える葦である?

裸でいるのが可笑しくなってきた。裸でいるときにこんなに頭を働かせることはそうそうない。うわごとを言うか、水が滴ってるかだった肌色を見ながら、服を着てないそのまんまの我が身がこんなに頭を使い、機能してることに嬉しさを覚えた。いわゆる後付けの喜びだが、気管のひりつく痛みさえも愛しくなる。たった今は頭と体が一緒になって外敵に立ち向かっている。許可なく入ってきた泡に向かって、でていけ、でていけと働きかけている。でもやっぱり裸でいるのが申し訳なくなってきた。

 

蛇口を捻って、水をがぶがぶ飲んだ。給湯器をつけていたから出てきたのは水ではなくてお湯だった。浄水器を通してないことが気になったが今はそれどころではないと思い、飲めるだけ飲んだ。出てきたのは洗面器の中に落ちた泡が溶けながらトラップを通って排水溝に流れていく様子をイメージした。飲みすぎてオエっとなった。オエっに合わせて、何度も咳払いをしたりもっと腹の底から喉を通って息を吐き出そうとした。水を飲む時はすぐに飲み込まず、口の中で揉むといいと聞いたことがある。

口に含んで少し待ってから飲み込んだら、飲み込む大変さが軽くなった気がして、唾液と混じって私仕様の水になったのかもしれないと思った。

すぐに飲み込まないのがよしとされてるのは、水の温度と体温を近づけるためという理由だからお湯でやっても意味がなくて飲み込みやすくなったななんて気のせいだったんじゃないかと服を着て髪を乾かしながら考えた。